終わりの終わり

 あの時、僕は決心をした。過去へと戻って、必ず彼女を助けると。

 だけど、現実は甘くなかった。いくら記憶だけを過去に飛ばして、自分の精神を操ることのできる機械があったとしても、出来ることと出来ないことがある。
 運命。それには誰も逆らうことはできない。もちろん、それは僕も例外ではないのだ。


 この日。彼女はあらゆる死に方をする。そのほとんどが交通事故死なのだが、それがひき逃げに遭うのか、対向車と衝突するのか、はたまた足を滑らせて転落するのか、その種類までは分からない。もちろん、規則性も存在しない。ただ言えることは、僕が何度助けたとしても、必ずこの日に彼女は死ぬということだ。

 頭がおかしくなるというのはこういうことを言うのだろう。何度目かの彼女の死を目撃した時、僕は本当に望んでいることがよく分からなくなっていた。彼女を助けたいのか。それとも、彼女の死ぬ姿を見たいだけなのか。現実だって分からない。全てが不条理で出来ている。何が真実で何が嘘なのか。その答えが見いだせなくなっていたのだ。

 それに、僕はすでに諦めていた。彼女は助けることのできない運命なのだと。死ぬことを知らせても彼女は死ぬし、もちろん、何もしなくても彼女は死ぬ。だから、僕はこれを最後にしようと心に決めた。隣に彼女がいる、絶好のチャンスであるこの時を。


「大事な話があるんだ」

 そう切り出す僕に、「どうしたの?」と、少しだけ不思議に微笑む彼女。でも、今の僕には見惚れている余裕なんてなかった。この笑顔が消えるまで、もう時間がないのだから。

「落ち着いてきいてくれよ」

 口早に、でも真剣に彼女へと話す僕。だが次の瞬間、突然彼女の顔つきが変わったかと思うと、彼女の口からはこんな言葉が聞こえてきた。

「私か、あなた。どちらかが死ぬのね」
「えっ?」

 驚かずにはいられなかった。

―どちらかって何?
―なぜ死ぬことを知っているんだ?

 僕の頭の中で解決することのできない問い掛けがぐるぐると回り始める。すると、彼女は何でもないかのようにこう言った。

「私の世界に、あなたはいないの」


 僕はようやく理解した。僕が生きて彼女が死ぬ世界があったように、彼女が生きて僕が死ぬ世界も存在するということを。すると、ある答えが僕の中で光を放った。そして、その答えを伝えると、彼女は静かに僕の手を握り、僕の方を向いて微笑みながらこう言ったのだ。

「そう。運命は一人で決められるものじゃないのよ」


 <完>

 ◇あとがき◇
 私が参加している小説同盟で、1000文字フェアなる企画が上がっていたので、完全に便乗した形で書いてみました(笑
 というか、書いてみて改めて思ったんですが、1000文字ってホント短いですね。どうやったら、1000文字になるか考えて、最後には削りに削りまくってこんな感じになってしまいました。ちょっと今になって、主題をもっと簡単なものにすれば良かったかなと少し後悔しております(汗

 でも、まぁこんなに短い話は初めてでしたが、話としては成り立っていると思うし、伝えたいこともある程度盛り込めてはいると思うので、構成とかの面ではちょっと勉強になりました。

 あと、最後に謎を多く残している作品ではありますが、時空を越えた話なので正解というものもないし、皆さんの好きなように考えて頂ければと思います。
 ただ、敢えて言うのであれば、共に生きるということができるか否かだけではなく、本当の幸せとは何なのかということまで考えると、この作品で伝えたかった本当の意味が少しは理解して頂けるのではないかと思います。

 ちなみに、好きな映画に「バタフライ・エフェクト」という映画があるんですが、この作品はその映画に影響を受けていますので、時間があればそちらもどうぞ。

それでは、ありがとうございました。

 2009年5月17日

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